2012年10月06日

音痴なのにカラオケ

「1年半ぶりにカラオケ会に入っちゃいました。」
「再入会か? 情けないねぇ。ホームページを完成させるまで一人で頑張ると言ったろう」
「武士でないから二言もありますよ〜」

武士は信義を重んじるので、一旦口に出して言ったことは必ず守る。英語では、Samurai warriors do not change their minds. とか。ああ、武士でなくて好かった。こんなこともあろうかと、日ごろから男らしい発言は一切しなかった。しかし、この心がけ、こんなに早く役に立つとは夢にも思わなかった。私だって人並みに見栄も張るし外聞も気になる。「武士に二言なし」とか言ってみたいし、又そのように行動する立派な人と思われたい。 

「そんなことだから信頼を失うのだぞ」
「得るものもありましたよ」
「得るもの?」
「拍手してもらいました。嬉しかったですね」

歌って拍手してもらえるのだから、こんなに幸せなことはない。嬉しくて仕方ないのだが、そんな素振りは見せない。実は、有り難いと気づいたのはごく最近のことなのだ。

「拍手ってどこでだ?」
「カラオケの例会で歌ったときです」
「ほ〜、拍手されて嬉しかったのかい」
「そりゃあ、嬉しいに決まっているでしょ」
「そうかい、分かった分かった」

よく下手だから歌わないと言う人がいるが、私の場合はそれ以前の問題が立ちはだかっていた。 オンチだから伴奏に合わせて歌えないのだ。リズムもとれないので、一生懸命画面に映る色の変化に合わせて歌う。誰でも歌えるように、画面の文字色で指示してくれるのだからありがたい。しかし、音程が合っているかどうかは分からない。これが問題だ。伴奏から外れた歌は聞き苦しいかも知れないが、歌っている私はもっと苦しい。止めてしまいたいくらいなのに、歯を食いしばって頑張っているのだ。

「だのになぜ歯をくいしばり〜♪ 君は行くのか〜 そんなにしてまで♪」
「おやっ 上手ですね。さすが先輩!」

せめて自分だけでも楽しく歌いたいと思っていたら、そのときがついに来た。気のせいかもしれないが、ある日突然声が伴奏に乗ったように感じたのだ。とても気分がいいものだ。「前より好くなったね」と言われ、嬉しさ倍増。

「拍手がそんなに嬉しいかい」
「ええ、この1年半は歌っても拍手が全然なかったですからね」
「どこで?」
「家で」
「奥さんに頼めば?」
「留守のときしか歌えないのです」

カラオケ会を止めるとき唯一の気がかりはカラオケに行けないことだった。しかし、よく考えてみれば、一人で歌っても同じことだ。どうせ誰も聴いていないのだから。一人で歌えば誰にも迷惑をかけないし、何も気にしないで楽しむことが出来る。理屈はそのとおりだが何となくもの足りない。

「聞かせたいという想いがあったのでしょうか」
「オレは聞きたくないよ」
「そうですよね」
「人の歌も聴かないとね」
「なるほど了解。足りないのは聴くことでした」
「それだけじゃないだろう」
「はいはい、拍手です。毎度ありがとうございます」
「やれやれ催促か。拍手くらい幾らでもしてやるよ」
「無理しなくていいですよ」
「したいからするんだ!」
「ホントですか?」
「武士に二言はない」
posted by 中波三郎 at 01:03| Comment(0) | カラオケを楽しむ